ジュード・ロウ

 映画ファンの頭の中にジュード・ロウの名前がはっきりと刻まれたのは、おそらく1998年だろう。本国での公開は前年になるものの、1998年に入ってから3月に『オスカー・ワイルド』、4月に『ガタカ』、そして6月に『真夜中のサバナ』が集中して日本公開されたのだ。久しぶりに登場したホンモノの美形、しかもゲイの匂い濃厚な役柄ばかりだったせいか、耽美主義を掲げる人々の心のガッチリ掴んだのだった。『オスカー・ワイルド』で演じた青年はオスカー・ワイルドの心を乱すゲイという役どころだし、『サバナ』だって実業家の愛人役。『ガタカ』は身障者のエリート役で一見そちらとは関係なさそうだけれど、深読みしようと思えばいくらでもできる匂いを華麗に発していた。

 しかし注目すべきは、ゲイ云々の表面的要素ではない。その役を演じるにあたってロウが自身の最大の特徴である妖しさを完全にコントロールしていたことだ。容姿が優れた者は少なくない。特に映画界ならば美しい男はゴロゴロしている。ただ、ロウがその他大勢の美形男優たちと決定的に違ったのは、その美しい佇まいの中から何か不穏な出来事を強烈に引き寄せる妖気を芳醇に醸し出していた点だった。特に目周りから匂い立つ妖気は研ぎ澄まされていて、無防備に近寄ろうものなら一瞬にして動けなくなってしまいそうにねっとりと粘着力のあるそれだった。中でも『ガタカ』はロウ以外には考えられない独特な個性を発揮、青白い画面の中、その存在はあまりにも危険だったと言える。

 そうしたロウの特徴が全開になったのは『リプリー』(99年)だったことは間違いない。マット・デイモン演じる主人公とは対極に位置する、あまりにも眩しい青年役。それまでの作品で翳りを帯びていたところを傲慢さに変換させ、しかしそれでもなお魅力的という圧倒的なパワー。ロウが退場する後半、一気に物語の吸引力が落ちてしまったのが、それを証明している。ロウの妖気はもはや作品の正否を分けるほどの武器になっていたと言えよう。

 色気というものもそうだけれど(当然のことながらロウもたっぷり具えている資質)、妖気を人工的に作り出すのはほとんど不可能に近い。ロウだってわざわざ技巧によりそれを作り出しているのではない。ただ、ロウはその所作からフッと沸いて出てくるそれを巧みに操る術を知っていて、役柄に絶妙に滑り込ませていく。21世紀に入ってからは、妖気と色気の混合体とでも言うべき魅力を強く押し出していくのが面白い。『A.I.』(01年)で演じた役柄などロボットなのに妙に艶かしかったし、『ロード・トゥ・パーディション』(02年)の殺し屋役の変態性にはロウならではの掴み所のない感じが良く出ていた。一見正統派のロマンティックロールである『コールド マウンテン』(03年)にしても、土の匂いに特有の色気と妖気が加味されていたと言って良い。

 最近のロウを面白くしているのは、年齢を重ねることで蓄積されてきた疲れかもしれない。一般人が疲れているだけだと哀れに見えて終わりということも多いのだけれど、スターの場合はそれが演技に有効に働くことがままあり、ロウもその例に漏れない。特に男優の場合は、疲れが色気のヴァリエーションを増やすことが多いのだけれど、ロウはそこに加えて妖気のヴァリエーションも増えてきたように思える。まだまだ面白い可能性を秘めている人だと思う。

 …とここで終わるべきなのかもしれないけれど、あぁ、書かずにはいられない。おそらく『リプリー』の頃からだが、ファンはロウについてある心配をし始める。それはもちろん前頭部の髪の量のことだ。元々危険な生え際ではあったものの、その美しい顔ゆえに気づかないふりをしていた人も多かった。…のだけれど気づかないふりをするのが難しいくらいにまで、生え際の後退は着実に進行する。今では多くの人がロウを見たとき、まず生え際チェックに走ってしまうのではないか。

 薄毛でもそれが気にならない、むしろ魅力にすらなるスターは存在する。エド・ハリスとジョン・マルコヴィッチはハゲ俳優界のツートップとして長年君臨しているし、ブルース・ウィリスやニコラス・ケイジはハゲを逆手にとってお笑いに挑戦している(ホントか?)。ただ、ロウのような美形が自然に魅力的なハゲになるのは難しいようで、どこかあんぽんたん風の滑稽味が出てきたこともまた、否めない。シエナ・ミラーとの恋愛ゴシップのマヌケさもあり、「綺麗なんだけど、どこか可笑しい」というイメージがつきつつあるような気がする。『ハッカビーズ』(04年)『ホリデイ』(06年)『シャーロック・ホームズ』(09年)といったコメディ映画への出演が目立ってきたのは偶然か(しかも、意外なほどにハマっている!)。『レポゼッション・メン』(10年)など、もはや開き直ったかのように一周してしまいそうなM字を強調していた。良いんだろうか。胸がざわつく。

 ロウの独特の妖気について書いていくと、なぜだかどうしてもその生え際について触れずにはいられない方向になってしまう。そうだ、今度はその妖気にマヌケなユーモアを“アクセントとして”加えられれば、新しい未来が見えてくるのかもしれない。そう考えれば『レポゼッション・メン』のあのマッチョハゲスタイルも納得がいく。強引か。無理矢理か。ヤケクソか。いや、でもホント、生え際の後退なんかに負けずに妖気を振り撒いて欲しいものだ。妖気よ、ハゲを呑み込んでしまえ。



教訓:他の誰にも負けない武器は大切に(髪の後退に負けるな)



MY ジュード・ロウ ムービー BEST 3
 1. 『ガタカ』(97年)画面を支配する艶かしくも危険な妖気!
 2. 『ロード・トゥ・パーディション』(02年)妖気を病的な方向に走らせて強烈なインパクト
 3. 『A.I.』(01年)妖しくもユーモラス。ジゴロロボットを演じられる俳優が他にどこに?





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