すべて彼女のために

すべて彼女のために “Pour elle”

監督:フレッド・カヴァイエ

出演:ヴァンサン・ランドン、ダイアン・クルーガー、ランスロ・ロッシュ、
   オリヴィエ・マルシャル、アンムー・ガライア、リリアーヌ・ロヴェール

評価:★★★★




 突然無実の罪で投獄された妻を助け出そうとする夫の話である。『すべて彼女のために』はしかし、犯人探しの物語ではない。真相を究明する物語でもない。愛する妻と息子に囲まれて幸せだった男が、人生を賭けた大勝負に出る。妻を脱獄させようと人知れず準備する様を描き出していく。

 遂に一か八かのときがくる。はっきり言って、計画自体には穴が目立つ。偶然を期待しているところもある。犯罪ドラマならばもっと緻密さを求めてしまうところなのだけれど、犯罪ドラマに見せかけたラヴストーリーであるこの映画においては、でも妙なリアリティが感じられて、むしろ感心する。無茶な賭けに出るってそういうことだろうと納得させられるのだ。夫は周到にも脱獄のプロに接触して教えを請う。脱獄するよりも、脱獄してから後が難しい。その言葉を胸に夫が決死の覚悟で大博打に出るのに手に汗握る。

 素人臭さが抜けない脱獄劇で重要になっているのが、夫の妻への愛であることは疑いようがない。計画が頼りなくても体力的に苦しくても、ただ夫が妻を心の底から愛しているという点には何の揺るぎもない。これが夫の行動の根底にあるがゆえに、物語自体にどっしりとした安定感と繊細な奥行きが感じられる。思い返せば重要なのは冒頭数分間の描写だ。ベビーシッターに子どもを任せてデートした帰りのエレヴェーター内、部屋に戻るまで待てないふたりが激しくキスを交わす。息子の顔を見て平凡な幸せを実感した直後、突如警官が部屋に入り込んできて、妻は連行されていく。これだけの中にこの家族がいかにして互いを信頼し、愛しているのかということが簡潔に説明されていく。

 そう、この映画、演出が大変タイトで気持ちが良い。無駄な描写は一切排除、その後の展開に重要な意味を持つ場面を厳選し、それを丁寧に紡いでいる。省略されている場面が持つ効果もなかなかのもので、想像させることで生まれるサスペンスも多い。中盤の血が流れるエピソードは無駄なそれに見えて、主人公がやろうとしていることが犯罪であることを思い起こさせ、美談に終わらせない味を添えている。単純なストーリーゆえ、いや単純なストーリーだからこそ、こうしたデリケートでスマートな組み立てが大切なのだろう。

 夫を演じたのがヴァンサン・ランドンで本当に良かった。一見しょぼくれた冴えない男でしかないのだけれど、妻への愛に嘘偽りが全く感じられないのが素敵だ。肌に張りはなく、弛みが目立ち、イボもあり、身体も疲れていることは一目瞭然。でも真っ直ぐな愛情と一刻も早く救いたいその執念をまとった彼は、まるでコーヒーのまろやかさを湛えた味わいで、文句なしに魅力的だ。ランドンが愛するダイアン・クルーガーもまた、ただの美人女優から凛とした佇まいの知的さを漂わせる変身ぶりで、とてもイイ。年齢差のあるカップルだけれど、全く無理がない。4つの目に説得力がある。

 描かれるのは夫婦愛だけではない。父と息子の愛、母と息子の愛もさり気なく織り上げられる。主人公と父親の間にある壁、小さな子どもが会えない母親に抱く不安が、丁寧に浮かび上がっている。やはりこれは愛の物語なのだ。





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「すべて彼女のために」を観た感想

★★★★妻を守りたいっていう夫の思いがすごい。息子と妻と3人で暮らす日がきっと来る。そう信じてひたすらひたすら頑張るのだ。なんていいダンナ様! ここまでしてくれる人いるかなー?ジュリアンの父との関係もとてもよかった。息子を思う気持ちが言葉に出さなくても
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